夢を見ていた・・・。 昔の・・・ほんとうに昔の夢を・・・。 そこにはまだ信じられる仲間がいて、 守りたい人達と、楽しかった日常があった。 でも、そんな日々が一変して、 俺の周りには誰もいなくなった・・・。 もう失わないように・・・多くを守れるように・・・、 そのためなら、いくらでも強くなれた。 だけど・・・その力はいつしか人々に恐怖された。 そこからは余りにも時間が立ちすぎて思い出せないが、 それでも守りたいと想う気持ちだけは残っていた。 いつまで持つか分からない想いを支えに・・・、 いつまで続くのか分からない罪を抱えながら・・・、 そしてまた、俺は世界を越えた。 アルシャードガイア 夜明けの風 第一話「出会い」 声が聞こえた。 優しくて穏やかな声が。 何十年ぶりかの、敵意のない人の声がした。 ゆっくりと目を開けると、そこには見慣れない部屋と少女が見えた。 少女が俺が動いたことに気づくと、優しげに何かを話してくる。 少女が何か言っている・・・。 その姿が「 」にとても似ていて・・・だからだろうか。 「もうだいじょうぶやから、安心してええんよ」 「 」とは違う声なのに、「 」の声と同じに聞こえて。 そのせいなんだろう、俺があんなことを言ってしまったのは。 「もう・・・これ以上・・・誰も殺させないでくれ」 それだけ言うと、俺はまた意識を失った。 部屋の外から様子をうかがっていた。 怪我人とはいえ身元不明の男を連れ込んだのだ。 もし何かあった時は私が切り捨てる。 そう思いながら部屋の外で待機していた。 部屋の音を全て聞き漏らさずに、怪しい動きがあったらすぐに飛び込めるように。 だけど・・・それが仇となってしまった。 主はやてに呟いたその一言を・・・聞いてしまったのだ。 その一言に惹かれてしまった。 自分たちに似ていると。 立場も境遇も違う、しかし・・・なぜか似ている。そう思ってしまった。 だからといって気を許すわけにはいかない。 この生活が壊れることだけは、絶対にさせたくないから。 「シグナム」 いつの間にか桶を持ったヴィータ背後にいた。 「・・・ヴィータか、どうした?」 ぼーっとしていた事は見抜いているだろうが、視線はすでに部屋の扉に向かっていた。 「・・・あいつは起きたのか?」 「いや・・・まだ目覚めてないようだ」 「はやてはどうしてる?」 「まだ付き添っている。ヴィータ、交代を頼めるか?」 ようやくこちらに視線を向けるも、とても嫌そうな顔をしながら答える。 「へいへい・・・。それにしても、なんであんなの拾ってきたんだ?」 「あの場でも助けると思ったからだ・・・主はやてなら」 ヴィータは一瞬呆然とするも、何故か口許を嬉しそうにする。 「・・・しゃーねーな」 ヴィータは部屋に入っていくと、主はやてに話かけているようだ。 (願わくば何も起こらないで欲しい。せめて主はやてが自由になるその日まで・・・) そう思いながらヴィータに続き、部屋に入って行った。 彼が家に運び込まれてから三日。 そろそろお昼になるという頃。 お昼ご飯を作ろうと、部屋から離れようとした時。 「・・・こ・・こは・・・?」 その声に振り向くと、彼が状態を起こそうとしていた。 慌てて近寄り、体を支える。 「いきなり動いちゃあかんよ。シャマル!ちょい来てや!!」 彼はまだ意識が覚醒してないようで、視点の合わない目でこちらを見てくる。 「・・・ か?」 「え?」 誰かの名前だったのだろうが、よく聞き取れなかった。 丁度シャマル達も来たようだ。 「あ、シャマル。この人見てあげて」 「分かりました。・・・ちょっと失礼しますよ」 そういってシャマルが近づき、触ろうとすると・・・その手を彼が掴み取った。 「俺に・・・触るな」 「「シャマル!!」」 咄嗟にヴィータが構え、シグナムが私を庇う様に彼との間に入る。 彼もそれに反応するように構えようとするが思うように動けないようだ。 「ぐ・・・がはっ・・・」 無理に動いたせいで彼は吐血をする。 その隙にヴィータは彼に向かって攻撃しようとするが、 「やめて、ヴィータ!!・・・シグナムもええから」 「はやて?!」 「主はやて、いけません!!」 二人の意見を押しのけるように、シグナムの前に出る。 未だシャマルの手を掴んでいる少年に近づくと、その手を両手で包む。 「な?!」 「だいじょぶ・・・だいじょぶやから」 「触るな・・・放せ!」 「そんなに心配しないでも、もうだいじょぶやから」 彼はシャマルの手を放しながらも私の手を振り払おうとするが、それでも私は離そうとしなかった。 その態度に少しずつだが、彼は抵抗をやめた。 「ぐ・・・。もう動かない・・・だから放してくれ」 彼の言葉はそう言ったが私は手を放す気はなかった。 この手を放したら・・・彼がどこかに言ってしまう気がしたから。 「シャマル、怪我を見たって」 近づくシャマルに一瞬嫌がるも、今度は大人しくしている。 「・・・・・・どうやらもうだいじょうぶのようです。ただし、しばらくは絶対安静です!」 そういうと彼の目の前に指を突き刺す。 「第一どういう考えをしてるんですか!!あんな死ぬ寸前の怪我をしておきながら、いきなり動くなんて!!」 「まぁまぁ、シャマルも落ち着いて・・・」 説教モードになりつつあるシャマルを慌ててなだめる。 「・・・・・・お前達は何者だ?何故俺がここにいる」 その問いに答えるようにシグナムが前に出る。 「お前が道端に倒れていたのをシャマルが治療したんだ。 ・・・あそこで何があった?あんな怪我をするほどの事故、そうそう起こるものではないだろう」 「・・・・・・・・・」 何か考えるように黙り込むと、何かを探るような眼でシグナムを見る。 「・・・俺以外には何もいなかったのか?」 「・・・あの場にはお前しかいなかった」 その言葉を聞くと、彼は起き上がろうとして・・・私に握られた手を見る。 「・・・いつまで掴んでいるつもりだ。放せ」 「いやや。放したら何処かに行くつもりなんやろ?」 「話を聞いてなかったのか?絶対安静だと言われたばかりだろう」 「別に俺の体のことだろ・・・ならお前らには関係ない」 無理矢理起きようとする彼の肩をシグナムが掴み押さえ込む。 「関係ないだと?お前を助けたのは私達だ。助けた人間がむざむざ死ぬような真似を見過ごせると思うか! それに貴様は、命の恩人に対して礼すらもできないのか?」 「ぐっ・・・」 どうやら痛い所を突かれたようで、彼の動きが止まる。 「シグナム、怪我人に乱暴はいかんよ」 「ですが、主はやて。私は・・・分かりました」 じーっとシグナムを見つめると、不承不承ながらもその手を放す。 「せめて怪我が治ってからじゃだめか?今、無理に出てくと怪我に障るし」 何かを見定めるように、あたしの方をじっと見つめてくる。 (あはは・・・、なんかこそばゆいわぁ) 「・・・・・・」 「お前なぁ!」 いい加減に変わらない彼の態度に、ずっと黙っていたヴィータが彼に掴みかかろうとする。 それを制するかのように彼はヴィータの目の前に片手挙げる。 「こら、ヴィータ!!」 「だって・・・はやて!こいつがはやての・・・」 「巽だ」 「「「「え?」」」」 「・・・こいつじゃない。戌亥 巽だ。憶えておけ」 「え・・・あ、うん。うちの名前はな・・・」 「それより、いつまで俺を押さえつけてるつもりだ。寝させない気か?」 その言葉に私とシグナムは慌てて手を放す。 そして自由になった彼・・・戌亥さんはすぐさまベットに横になってしまう。 「・・・あああ、まだ寝んといて!うちの名前言ってないのに!!」 戌亥さんが寝てしまわないうちに、私は自己紹介を始めだした。