いつからだろうか・・・







人を守るために剣を取り、




敵を倒すために振るっていた力を・・・












自分を守るために力を振るい、




守ってきたものを壊すようになったのは・・・。















自分を見る目が・・・




尊敬、希望、喜びから・・・




畏怖、絶望、憎悪に変わったのは。






















世界を救った希望の力は、いつしか絶望を担う力になった。


















彼の見る世界はいつも紅く、




その濁った腐食の気配は消えることがない。













過去は敵の血と屍で




現在は自分の血と憎悪・・・。












流れるものが変わっただけで




その光景は絶えず変わる事がない。






























さて・・・・・・次の世界もまた、紅く染まるのだろうか・・・。





































アルシャードガイア

       夜明けの風

           プロローグ

































路地裏の奥・・・そこで男が倒れていた。

見慣れた色で地面を染めていたその男は、身動き一つしない。

明らかに普通の怪我ではない・・・戦いで負ったであろう傷跡が所々に見える。

昔の自分なら自分に関わりのないそれに、見向きもしなかっただろう。

元より彼女にとって、それは見慣れていた光景なのだから。

でも今は違う。

新しい主が・・・出会いが彼女を変えていた。

だからだろうか・・・そんな男に声をかけたのは。

「おい・・・、生きているのか?」

声をかけるが反応はなく、身動きすらしない。

しゃがんで息を確認すると、辛うじて生きていることが分かる。

だが、それも長くは続かないであろうことは誰の目から見ても明らかだ。

「・・・・・・まずいな」

このまま放置していては、この男は助からないだろう。

この近くに病院はなく、輸送するにもしばらく時間がかかる。

その上怪我の深さから見ても、現代の医療機関では治る前に男が死ぬであろうことが見て取れる。

(手遅れだな・・・。もってあと数時間か)

シャマルの治癒魔法も考えたが、ここからの距離を考えると微妙なところだ。

それにこの世界で魔法を使う危険性を考えると、あまり良い手ではない。

もう助けるのは無理だろう、そう考えた。

だが、同時に思うこともある。

(主はやてなら・・・見ず知らずの男だろうと最後まで助けようとするのだろうな)

その考えが彼女を動かした。

昔の彼女ならば、絶対にしないであろう行動をするために。

《シャマル、今から怪我人を連れて帰る。かなりの深手を負っているので、治療にとりかかれるように準備していてくれ!》

《え?怪我人てどういうこと?!》

《事情はあとで話す。すぐに帰るから頼んだぞ》

まだ何か言っているシャマルとの通信を一方的に断ち切る。

そしてシグナムは男を抱きかかえ、大空を飛び立った。

今まで数度あったか分からないであろう、

命を奪うのではなく、命を救うために。




























晩御飯の準備をしていると、いきなりシャマルが慌てだした。

シグナムからの急な連絡・・・しかも怪我人を連れてくるという。

《ちょっと!シグナム!!一体なにがあったの?!》

だが、通信を切っているらしく一向に応答がない。

(怪我人って何があったのよ・・・通信を切るほどのことって・・・まさか)

単なる事故なら救急車ですむはずだし、そもそも家に連れて来る必要がない。

瞬時に浮かんだのはシグナムが誰かと戦ったということ。

ヴィータやザフィーラは蒐集に出かけているから、あの二人が怪我人ということはない。

怪我人というくらいなのだから、シグナム以外の誰かということになる。

(まさか・・・管理局の人間と?)

そう考え込もうとして、ふと気づくことがあった。

(もし管理局の人間と戦ったなら、まずそっちを先に言ってくるわよね・・・)

次第に頭が冷えていたのか、だんだんと思考が落ち着いてくる。

(私の元に連れてこないといけない人間ってことは、病院に連れて行っても助からないから・・・)

昔のシグナムなら、道端で死にかけの人間がいても何も思わなかっただろう。

でも、今は違う。

八神はやてという主を得てから、私達は変わったのだから・・・。

「シャマル?どうかしたん?」

そんなシャマルに気がついたのか、車椅子に乗った少女・・・はやてが話かけた。

「いえ・・・シグナムがいきなり怪我人を連れてくるって言い出して・・・」

「怪我人!?シグナムが事故にでも巻き込まれたんか?」

「そんなことはないでしょうが・・・」

そこで一度言葉を選ぶと

「なんでもかなりひどい怪我らしいです。たぶん救急車じゃ間に合わないと判断したのでしょうけど・・・」

事故と聞くと少女は慌てだし

「大変や、ならすぐに救急箱とか用意せな」

「・・・そうですね」

怪我人を連れてくる。普通はそんなことを言われたら多少なりと迷惑そうな顔をするだろう。

でもこの少女は一切そんな顔をしない。それどころかシグナムのことを信用して、それを受け入れようとしてくれている。

そんなはやての優しさに微笑みながら、シグナムが帰ってくる準備を始めた。


























それは高校生ぐらいの男の子でした。

シグナムの肩を担がれながら運ばれた彼は、私から見てもひどい怪我で・・・助けると思いながらも立ちすくみそうになしました。

すぐに奥のベットで寝かし、シャマルが治療したおかげで峠は越えたらしい。

シャマルから聞いた話では腕を初めとした数箇所の骨折に加え、体中にあった斬り傷が特にひどかったらしい。

その本人はどうにか落ち着いたようで、深く眠りについている。

さっきまではヴィータも一緒に看病していたのだが、今代わりの水を取りにいってくれている。

「こんなに怪我して・・・大変やったろうな」

思いだされるのは過去の自分。事故から今までずっと一人で暮らし続けた寂しさ蘇る。

(どれだけ苦しいかったんかは分からないけど、一人でいる寂しさだけは分かる。
 だから・・・この人が起きるまでは傍にいてあげよう)

しばらく傍にいると、彼が苦しそうに唸り始めた。

そんな彼の手を握ると安心できるように語り掛ける。

「もうだいじょうぶやから安心してええんよ」

その言葉を聞くと、少年はうっすらと目を開ける。

何かを喋ろうとしているがちゃんと喋れないようだ。

「ん、どうしたん?」

耳を近づけるはやてに、少年は小さく・・・一言告げる。























「もう・・・これ以上・・・誰も殺させないでくれ」
























それが男が少女に初めて話した言葉であった。